情報漏洩リスクを低減 クラウドデータの暗号化設定の基本と確認方法
クラウドサービスの利用は、業務の効率化やコスト削減に大きく貢献しますが、同時に情報漏洩のリスクについても考慮する必要があります。特に、企業が扱う顧客情報や機密データがクラウド上に保存される場合、万が一の事態に備えたセキュリティ対策は不可欠です。本記事では、情報漏洩リスクを低減するための重要な対策の一つである「クラウドデータの暗号化」について、その基本と具体的な確認方法を解説します。
クラウドデータの暗号化とは何か
暗号化とは、データを特定のルール(暗号化アルゴリズム)に従って、許可された人以外には読めない形に変換することです。この変換されたデータを「暗号文」と呼びます。暗号文は、適切な鍵(復号キー)がなければ元のデータ(平文)に戻すことができません。
なぜ暗号化が必要なのでしょうか。クラウドサービスに保存されたデータが、不正アクセスや内部の人間による誤操作、あるいは物理的な記録媒体の盗難などによって外部に流出してしまった場合、データが暗号化されていなければ、流出した情報はそのまま第三者に読み取られてしまいます。しかし、データが暗号化されていれば、情報自体が流出しても、その内容を読み取られるリスクを大幅に低減することができます。これにより、情報漏洩による損害を最小限に抑えることが可能になります。
クラウドサービスにおける暗号化の主な種類
クラウドサービスにおけるデータの暗号化は、主に以下の二つの側面で考えられます。
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保存時の暗号化(Encryption at Rest)
- どのような暗号化か: クラウドストレージやデータベースに保存されているファイルやデータそのものを暗号化するものです。データがサーバーのハードディスクやSSDなどの記憶媒体に記録される際に適用されます。
- なぜ必要か: サービス提供者のデータセンターへの不正侵入、物理的なディスクの盗難、あるいはバックアップ媒体からのデータ流出などが発生した場合でも、データの内容を保護するために重要です。
- 確認のポイント: 多くのクラウドサービスでは、保存時の暗号化がデフォルトで有効になっていますが、利用するサービスや設定によっては、ユーザー自身が設定を選択・確認する必要があります。
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通信時の暗号化(Encryption in Transit)
- どのような暗号化か: ユーザーのデバイスとクラウドサービスの間、またはクラウドサービス内の異なるコンポーネント間でデータが送受信される際に、その通信経路を暗号化するものです。
- なぜ必要か: データがインターネットなどのネットワークを経由してやり取りされる際、第三者による通信の盗聴や改ざんを防ぐために不可欠です。
- 確認のポイント: ウェブサイトのURLが「http://」ではなく「https://」で始まっている場合、通信がSSL/TLSというプロトコルによって暗号化されていることを示します。これにより、安全な通信が確保されます。
クラウドサービスの暗号化設定の確認ポイント
自社で利用しているクラウドサービスでデータが適切に暗号化されているかを確認するための具体的な手順を以下に示します。
1. 保存時の暗号化の確認
利用しているクラウドサービスの種類によって確認方法は異なりますが、一般的なSaaS(Software as a Service)やクラウドストレージサービスでは、以下の項目を確認します。
- サービスのセキュリティ設定画面または管理コンソールを確認する:
- 「ストレージ設定」「データ保護」「セキュリティ設定」などの項目にアクセスし、「データの暗号化」「保存時の暗号化」といった記載があるかを確認してください。
- 多くの大手クラウドサービスプロバイダーでは、保存時の暗号化がデフォルトで有効になっていますが、オプションで暗号化の種類(例:利用する鍵の種類や管理方法)を選択できる場合があります。
- サービスの公式ドキュメントやヘルプページを参照する:
- 「[サービス名] データ暗号化」「[サービス名] セキュリティ」といったキーワードで検索し、データがどのように保護されているかの説明を確認します。
- 自社で特定のデータをクラウドストレージにアップロードしている場合は、そのストレージのプロパティや設定で暗号化が有効になっているかを確認します。
【確認のチェックリスト例】
- 利用しているクラウドサービスで保存時のデータ暗号化が提供されていますか?
- その暗号化はデフォルトで有効になっていますか、それとも手動で設定する必要がありますか?
- 暗号化の設定オプションがある場合、自社のセキュリティポリシーに合致していますか?
2. 通信時の暗号化の確認
通信時の暗号化は、主にWebブラウザやアプリケーションを通じてクラウドサービスにアクセスする際に適用されます。
- Webブラウザでアクセスする場合:
- Webブラウザのアドレスバーに表示されるURLが「
https://
」で始まっていることを確認します。 - アドレスバーの左側に鍵のアイコンが表示されていることを確認します。このアイコンをクリックすると、証明書に関する情報が表示され、通信が暗号化されていることを確認できます。
- これはSSL/TLSによる通信暗号化が有効であることを示しており、Webサーバーとブラウザ間の通信が保護されています。
- Webブラウザのアドレスバーに表示されるURLが「
- 専用のアプリケーションやAPIを通じてアクセスする場合:
- 利用しているアプリケーションやAPIクライアントの接続設定やドキュメントを確認し、セキュアな通信プロトコル(例:HTTPS、SFTP、FTPS)が使用されているかを確認します。
- クラウドサービスが提供するAPIを利用する場合も、基本的にSSL/TLSを介したアクセスが推奨され、多くの場合はそれが標準となっています。
【確認のチェックリスト例】
- クラウドサービスの管理画面や利用中のアプリケーションに、
https://
でアクセスしていますか? - Webブラウザのアドレスバーに鍵マークが表示されていますか?
- 利用しているクラウドサービスが、セキュアな通信プロトコルを標準で採用しているか、ドキュメントで確認できましたか?
暗号化がもたらす「あんしん」と注意点
クラウドデータの暗号化を適切に行うことで、企業は以下のような「あんしん」を得ることができます。
- 情報漏洩時の被害軽減: 万が一データが流出しても、その内容が暗号化されていれば、第三者が読み取ることができないため、情報漏洩による直接的な損害を大幅に減らせます。
- 法規制への対応: 個人情報保護法やGDPR(一般データ保護規則)など、データの保護に関する様々な法規制が存在します。暗号化は、これらの規制への準拠を支援する重要な手段の一つです。
- 顧客・取引先からの信頼維持: データ保護への取り組みは、企業の信頼性を示す上で非常に重要です。
一方で、暗号化は万能な対策ではないことも理解しておく必要があります。例えば、アクセス権限の設定が不適切であれば、権限を持つ正規のユーザーが暗号化されたデータにアクセスし、復号して持ち出してしまうリスクは残ります。したがって、暗号化は、多要素認証、適切なアクセス権限設定、ログ監視など、他のセキュリティ対策と組み合わせて実施することで、その効果を最大限に発揮します。
まとめ
クラウドサービスの利用が一般的になる中で、データの暗号化は情報セキュリティの基本中の基本として、その重要性が増しています。保存時の暗号化と通信時の暗号化の二つの側面を理解し、自社で利用しているクラウドサービスの設定を定期的に確認することが、情報漏洩リスクから大切なデータを守り、「あんしん」してクラウドサービスを利用するための第一歩となります。この機会に、ぜひ自社のクラウド環境の暗号化設定を見直してみてください。